際限なく経費をかければ高級布団は作れる。見てくれだけ美しい布団も品質に対するこだわりを捨てれば大量生産が可能だ。しかし“誰でも買えるような値段で高品質の布団”を作るのは至難の業。それにあえて挑戦し実現させた男がいた。さくら産業株式会社、企画担当の小嶋直之と出荷部の山中裕紀だ。奇才なアイデアで業界に新しい風を吹き込んできた小嶋。現場リーダーとして、小嶋を静かなる闘志で支える山中。ふたりはいかにして不可能を可能にしたのか。
布団って定義があるようでない
以前は輸入家具メーカーに勤めていたんですけど、33歳の時に親父から「布団屋に来ないか」と誘われて転職しました。 親父、さくら産業の初代社長なんです。正直、一緒にはたらく事は気乗りしませんでした。でもさくら産業もなかなか大変だった時期で、おふくろからも「父親が困っているのだから何とかしろ!」と言われて入社しました(笑)。
という事は、寝具に関しては素人からのスタートになった?
知識を蓄えるまでには本当、苦労しました。いまもまだ修行中かな。布団って定義があるようでない。未だに毎日が新しい発見の連続です。家具メーカーで営業をしていた時は、与えられた商品を売るだけで良かった。でもさくら産業に来てからは企画、生地や綿の選別、手配、製造工程、ラッピングから配送、管理まですべての業務に携わっている。場合によっては、ミシンで布団を縫う事だってある。覚えなければならない事はいくらでもあるので、12年目になったいまでも日々苦労の連続です。
山中さんは、入社のきっかけは?
高校時代に部活でグラウンドホッケーをしていたんですけど、顧問の先生が弊社の総務にいたんですね。就職先を決める際に「あの会社ならしっかりしているし、やりがいもあるはずだから」と薦めてもらったのがきっかけでした。 自分の場合も、特に寝具業界に初めから興味があったわけではありませんでしたが、仕事をしながら徐々に面白さを知っていった感じですね。 入社してすぐ、いまと同じ出荷部に配属されて、すぐに梱包などに使用するビニールや段ボールを業者と交渉する仕事を任されました。わずか10円、20円の単価の違いが何百万円という金額の差を生む。そんな仕事をまだ10代そこそこの若造が、ですよ。
それはプレッシャーですよね。
大型トラック30台分の荷物をさばかなければいけなかったり。夜中の2時まで掛かる事も普通でした。布団はあるのに副資材が足りなくて出荷できなかった。自分の判断ミスで作業全体を停めてしまい迷惑をかけてしまったんです。 最近ようやくですね、価格交渉や荷物をさばくプレッシャーを楽しめるようになってきたのは。
自分もそうですよ。企画にしても消費者の心を理解して、“売れる”と自信を持っていえるような商品を提案できるようになるまでには、5年以上かかりました。それまでは毎回、ダメ出しの連続で……。 自分の仕事に対して少しだけ安心できるようになった、自分の仕事を信頼できるようになったのは、まだ最近の話です。
二人で意見がぶつかり合ったりは?
ほとんどないですね。小嶋のほうから結構無茶振りされることはありますけど・・・(笑)。
(笑)。そうそう、たいてい俺は言い切って逃げちゃう(笑)。山中のフォローを信じていますからね。
エムールとさくら産業の出会いは4年前。「高品質の綿100%で織った側生地を使った布団を、誰でも買える値段で大量生産出来ないか」という難題を抱えていたエムール社長・高橋が知人を介して顔つなぎをしてもらい訪ねたのが最初だった。いまではクラッセ、ルミエールという綿100%の側生地を使った主力布団セットを生産。エムールのコンセプトをどこよりも理解し、互いに刺激し合いながら最良のパートナだ。
機能美を感じる布団
高橋社長とは、最初は別の人間が対応していたのですが、ネット業界には疎くて(笑)。それで「ちょっと小嶋来てくれ!」となり、同席するうちに自分がエムール担当になりました。 良い悪いは別にして「変わった人がきたなぁ!」というのが第一印象でした。すごくハイテンションで、「わたしは布団を20万セット売ります!」なんて調子で(笑)。「えらい大風呂敷をひろげる人だな~」と思いましたけど、でも面白そうな人だから、ちょっと付き合ってみたいな……と。それでいまに至っています。
いままでみたことがないようなタイプでしたね。古いしきたりが残っている業界なので、「買ってやっているんだぞ」とちょっと偉ぶった雰囲気をかもし出す取引先も少なくない。高橋社長の場合はまったく「俺は社長だ!」みたいな雰囲気は微塵もなく、最初からすごくフレンドリーでした。
だからだよね、エムールさんとは「一緒に仕事がしたい」、「力を貸したい!」と思えるのは。実際、エムールさんとの仕事が一番楽しい。こちらも可能な限り「良い商品を生産して提供したい」という気持ちになります。 実際、綿100%の側生地に拘ったエムールのルミエール(2007年発売開始)とクラッセ(2009年発売開始)のセットシリーズは販売から累計で8万セット売れている。掛け布団、敷き布団の単品も合わせればゆうに10万点は越えています。
「わたしは布団を20万セット売ります!」といった高橋社長の言葉、当時は夢物語にしか思えなかったけど、数年後には実現しそうな勢いですよね。さくら産業としても欠品を出さないように、いままで以上に連携をしっかり取って、在庫を切らさないように日々、管理に気を配っていきます。
エムールの良さは、最初から「価格ありき」の商品企画はしない所でしょうね。商品を見れば誰でもすぐわかりますよ。側生地は綿100%、縫製もとことん丁寧さに拘っているから、単なる美しさではなく機能美を感じます。もちろんエムールより安く買える布団はたくさんあります。でも品質を考えればかなりお買い得と言えます。その分、品質とは別の部分で相当な経営努力をしていることは間違いないでしょうね。
綿の側生地は、肌触りという点では絶対的な安心感があると思います。綿100パーセントの生地とポリエステル混、あるいはポリエステルの生地では、比べてみればすぐわかりますが、肌触りの良さが全然違いますね。 ポリエステルの場合は、冬にかけては「ひやっ」としてしまう。逆に夏場は蒸れてべたべたしますよね。綿100%ですと、保湿したり発散したりと、生地自体が水分調整をしてくれる。綿100%の生地はどんな季節でも最適な、最高の肌触りを提供してくれます。
高橋社長は綿にこだわりますけど、僕もその考え方には大賛成です。「最高品質の材料を使い、手間隙かけて布団を作ろう」という心意気を感じます。見てくれだけ綺麗な商品は作らない。そのあたりは、高橋社長も職人気質なのかもしれませんね。