東京ヴェルディ 冨樫剛一監督 スペシャルトーク(前編) J1への階段を駆け上がる東京ヴェルディ。躍進の要因は、選手自身が自然に考える仕組みにあった。


監督室のドアは常に開けているんです(冨樫)

高橋

今シーズンの目標を9位に掲げ現在6位(2015年10月8日現在)と予想以上の好成績の要因はなんだと思いますか?

 

冨樫

選手が日頃のトレーニングに高い意識を持って頑張っている。何事も同じですが毎日トライ&エラーを繰りかえし改善していくことが大切だと理解してくれていることでしょうか。プロサッカー選手は、私生活においてもトレーニング中心の生活です、また食事と睡眠に気を配るプロ意識の高い選手が増えてきたことも要因の一つですね。
監督室のドアは常に開けているんです。選手との何気ないコミュニケーションってやっぱり大事ですからね。時々「昨日プレミアリーグでこんなプレーがあったよな。」って話をシレッとするんですよ。選手の反応を見て、「あっ、こいつ昨日出歩いていなかったんだ。」とちょっと安心しちゃったり、自分自身で体調管理できてるなと思ったりします(笑)

東京ヴェルディ 冨樫剛一監督

昨シーズン途中より監督に就任し、J3降格危機にあったチームを立て直しJ2残留。自身も中学生からヴェルディの前身読売クラブでプレー。まさに「生え抜き」の指導者だ。

高橋

ユース上がり1年目の三竿選手など、若手選手が活躍できている理由は?

 

冨樫

ユースの経験がある選手は、私の思い描くサッカーについて理解しているというアドバンテージを持っていますが、ユースだからという理由で選手を選ぶことは決してありません。ただ次のゲームに勝つための選択をしたら、ユース上がりの選手がこの人数になっていたということなんですね。
監督というのは選手を選ぶ権限を持っているわけですが、スタメン11人、そして控え7人の18人を選ぶのが本当に難しいくらい実力差が均衡しています。贅沢な悩みでもあるんですけどね。
高木善朗や大木暁達の代は自分がジュニアユース監督時の時、中学2年だったわけですね。当時から彼らに指導する時は、トップリーグに進むことを前提に指導・トレーニングをしてきたんです。「2015年J1で優勝しよう!」だから今はこういう練習をしよう、ユースにあがったらこのトレーニングをしようと。全てのことがJ1で優勝することを目標としているので、方針がブレることはこれまで少なかったですし、僕の夢は彼らが、J1で活躍して、海外チームに移籍してさらに活躍してくれることなんですけど、そこまでには脈々とヴェルディユース時代から一貫して繋がっているものがあるんですよね。当時は自分がヴェルディの監督になるとはまったく思ってもいなかったですけどね。(笑)

高橋

監督のようにユースからトップリーグまで長いスパンで同じ選手を見続けるケースはそんなに多くないと思うのですが、何か参考にされた事例や、その思考の原点になっているようなものがあるのでしょうか?

 

冨樫

最近はそういった長いスパンで育成していくチームが増えてきていることは事実ですね。ただ僕の場合は、自分がここで育ってきた、ということが一番大きいです。自分は中学校にあがる時にヴェルディのセレクションに受かりました。ジュニアユース時代は試合に出たり出れなかったりの選手でしたが、ユースになってからやっとゲームに出れるようになりました。そして、プロが近づいてきて、実際にプロのサッカー選手になって...1995年に移籍。ヴェルディを外から見る経験を経て、ヴェルディの良さ、そして悪さを体感した後、2006年に再びヴェルディに戻ってきました。そういったこれまでの経験が自分のサッカーにおける思考の原点になっているのではないでしょうか。

東京ヴェルディ 冨樫剛一監督

リオ五輪を目指すU-22日本代表にも選出された安在和樹(左・6番)を始め育成組織出身の若手選手の活躍が目立つが、中後雅喜(中・8番)や井林章など中堅・ベテラン選手との融合が躍進の大きな要因だ。それも冨樫監督の厚い人望によるものが大きいかもしれない。

何につけてもサッカーに置き換えて考える習慣がついてしまった(冨樫)

高橋

組織のマネージメントにおいて気を付けていることはありますか?

 

冨樫

結果の全責任を担うのが監督の仕事です。でも、監督が偉いとはひとつも思っていません。僕はトップチームのマネージャーを3年やったんですけど、その時思ったのは、ピッチの上で仕事をするという点では監督は重要なポジションだけれど、マネージャー、トレーナーなどのスタッフが選手のメンテナンスをし、試合を行い、トレーニング、そしてまた次の試合に向えるって、当たり前のことじゃないと思うんです。それがあるからこそ選手が思い切りフィールドでプレーすることが出来るんですね。
監督や選手だけじゃない。それを支えるスタッフ、そして育成チームとの横のつながり。誰でも自分の意思を伝えることのできる環境があった上で、自分が出すジャッジに対して皆が後押ししてくれる、だから自信を持って決断できている今の自分がいると思ってます。勝つためだけのチームをつくるなら自分じゃないほうがいい、ってたまに思ったりするんですけど...

高橋

非常に豊富な経験をお持ちの監督ですが、そのエッセンスがチームにしっかり浸透しているイメージを受けます。組織論やチームマネージメントについて学ばれた経験をお持ちなのではないですか?

 

冨樫

とくに組織論的な座学を受けたという経験はありませんが、本を読むことは好きですね。小さいころからサッカーが大好きだったので、何につけてもサッカーに置き換えて考える習慣がついてしまったんです。算数の勉強をしていても、これってサッカーにつながるんじゃないかとか、数の計算が、数的優位やポジショニングに見えてくるんです。
選手だけでなく、トレーナー、ウェルディの社員にもそれぞれ違ったストロングポイントがあるんですよね。それをお互い出し合えればすごく大きな力になるし、その力を出させる環境を作ることが大事なんです。これからもその環境を作ることが自分の仕事のひとつとして実行していきたいと思っています。

東京ヴェルディ 冨樫剛一

笑顔や話しぶりの節々から、冨樫監督の人柄の優しさが伝わってくる。

インタビュー後記

東京ヴェルディ 冨樫剛一監督

視野が広く、選手を始め周りのスタッフすべての人に気を配る冨樫監督。これまでにお会いした指揮官の方には無い深い魅力が印象的な取材となりました。監督曰く、「人に好かれるような顔をしてるけど、本当は黒くて、ずるいんですよ。」と。そういった謙遜する姿勢の中にも、緻密でずる賢い戦略が今期の躍進につながっていると感じました。

後編「J1への階段を駆け上がる東京ヴェルディ。試合直前のミーティングはわずか2分。その裏には隠された努力があった」はこちら

ねむりくらし研究所 高橋幸司