J1復帰を目指す東京ヴェルディ
緑のユニフォームの伝統をプレーで伝える44歳
徹底した自己管理がいまもピッチに立てる理由
前編


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Q 永井選手は来シーズン、プロサッカー選手25周年を迎えます。44歳の永井選手より年上は、Jリーグ全体でも48歳の三浦知良選手(現横浜FC)だけです。ここまで長く、プロとして現役を続けて来る事が出来た理由は何だと思いますか。

 

節目節目で素晴らしい指導者や先輩にめぐり合えて来た事が大きいですね。
小学校では「新庄道臣先生」という、のちに九州の少年サッカー界の名将になる先生と出会い、サッカーの「楽しさ」や勝つ事の「喜び」、「素晴らしさ」を学びました。練習自体は厳しかったけれど、「キーパーからボールをもらって、ドリブルでかわして決めて来い!」と自由にプレーさせてもらえたので、すごく楽しかった。

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サッカー選手、永井秀樹の原点。小学校時代の恩師、新庄道臣先生と。当時の憧れの選手はマラドーナ。誰よりも早くグラウンドに来てドリブルなど練習に励み、暗くなっても1人で残りボールを蹴り続けていた。

 

「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、まず好きにならないと楽しくない。何をするにしても同じ。好きになる事が一番。そして大人は、好きになるための「気付き」のヒントを与えてあげる事が大切だと思います。「ああしろ」「こうしろ」で命令するのではなくて、「こういう選択肢あるよ」と気付きのヒントを提案する事が大切だと思います。

 

中学では「吉武博文先生」。吉武先生はのちに学校の先生という安定した立場を捨ててヨーロッパへ渡ってサッカー指導者の勉強をし、2011年には17歳以下の日本代表監督として日本を18年ぶりにベスト8進出させました。そんな方に中学生時代、中学日本一に導いていただくと同時にサッカーの「奥深さ」を学びました。
戦術を科学の眼で見る事、考える事の大切さ。いまでも何か疑問に思ったりした時は、吉武先生に相談しています。

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中学時代の恩師、吉武博文先生(写真中央)そして後輩の、元日本代表、三浦淳宏氏(写真右)。

 

高校では地元の大分を離れて入学した長崎県の国見高校で、高校サッカーの名将、小嶺忠敏先生と出会い心身とも逞しく成長する事が出来ました。

大学では、現在、国士舘大学の学長を務められている大澤英雄先生。大澤先生は学費免除の特待生で入部したにも関わらず、読売クラブに入るために退学を決めて迷惑をかけた自分に対して、嫌な顔をするどころか、むしろ応援して下さった。

プロになってからはラモス(瑠偉)さん。ラモスさんからは常に「ちやほやされて勘違いするな!」と言われ続け、プロとしてサッカーをするとはどういう事かを教えていただきました。

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Q ラモスさんの存在について。

プロサッカー選手としての、すべてにおいてのお手本です。いまの若い選手は、現役時代のラモスさんを知らないからわからないかもしれないですが、いまでも中盤の選手で、ラモスさん以上の技術、そしてハートを持った選手は出会った事はありません。

 

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東日本大震災時、師匠と仰ぐラモス氏(写真中央左)と一緒にメディアなどには一切公表せず、被災地で定期的にボランティア活動を続けた。

 

Q たしかに永井選手が出会ってきた指導者はみな、カテゴリーは違っても日本のサッカー界に大きな貢献をしてきた方たちばかりです。
偶然ではなく永井選手の志の高さが、そうした人物を目には見えない力で引き寄せていったように思います。

 

おそらくこの中の誰か1人でも出会えていなかったら、いまの自分はない。節目節目でそうした人物に出会えた事で、サッカー選手としてだけではなく人としても成長する事が出来ました。
普通ならば「もう無理だ」と思うような場面でも踏ん張れるのは「何事も諦めず本気で努力していれば必ず道は開ける」という事を、素晴らしい指導者の方々から教えていただいてきたからです。

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Q あともうひとつ。永井選手がここまで長く現役を続けて来れた理由は、未だに若手に負けない体力もある。

 

それは高校時代の貯金が大きいと思います。お話したように、高校は地元の大分を離れて、全国で最も練習量が多いと言われた国見高校(長崎県)に在籍しました。 

厳しい練習の後、学校の裏山までの10キロメートルを毎日走る。
高校選手権で全国優勝して日本一になった翌日も走りました。試合も1日3試合なんて当たり前でしたし、高校時代の3年間、実家に帰る事もありませんでした。練習量と体力面に関しては、高校時代のほうがプロになってからよりも断然厳しかった(笑)。

 

Q 厳しい環境で揉まれて心も体も逞しく成長した国見高校では、中学時代に引き続き日本一になりました。小嶺先生から学んだ事で、心に残っている事は何ですか。

 

いまでも忘れられないのが高校選手権で日本一に輝いた時です。
祝賀会で僕ら選手が、今日は無礼講とばかりに盛り上がっていたら、別室に呼ばれた。

「――小嶺先生、いよいよ泣くな」

「おつかれさま、おまえたちの監督でいられた事を誇りに思う」

とねぎらいの言葉をかけられるのかと思ったら

「おまえらふざけるな! 自分たちの力だけで日本一になれたと勘違いするな! 後援会の人たちがいるからこそ、こうして遠征もできるし試合もできるんだ。浮かれるな!」

といきなり雷を落とされた。

「良いか、本当に強い者は、勝って兜の緒を締めるんだ」

「自信を持つことは大事だ。でもそれが少しでも過信に変わった時点で、人間は落ちていくんだぞ」

と説教されました。

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FC琉球時代(2009年当時)、沖縄まで応援に駆けつけた恩師、小嶺先生(写真右)と握手を交わす。「いまも小嶺先生とお会いすると背筋が伸びますし、緊張します」(永井)

 

1-IMG_3129当時は「何だよ、苦しい練習続けてきて優勝できたのだから、今日ぐらい良いじゃん」
と思っていました。
いまは当時、小嶺先生から言われた言葉の意味がよくわかります。
小嶺先生の座右の銘は、「勝って兜の緒を締めよ」そして「自信と過信は紙一重」。
謙虚さ。
感謝の心。
相手を思いやる優しさ。
プロになってJリーグバブルと呼ばれた時代、世間からまるで芸能人のような扱いを受けて、勘違いしそうになった時期もありました。
でも甘い誘惑に乗ったり浮かれたりはせず、真摯にサッカーと向き合い、過信せず取り組み続ける事が出来るのは、小嶺先生を始め、新庄先生、吉武先生、大澤先生、そしてラモスさんという素晴らしい人生の先輩方と出会い、人として大切な事は何かを教えていただいた事が大きいと思います。

 

Q 朝は何時に起きますか。

 

朝7時に起きます。じつは自分の中で一番緊張するのは朝起きる時です。

 

Q それはどうしてですか。

 

朝は身体のどこに違和感があるかの確認で始まります。
「今日も1日、身体を動かせることが出来るか」という確認。1年365日、身体のどこも痛くないという事はまずありません。体のどこかに張りや痛みは必ずある。
いまは
残念ながら若い頃のような回復力はない。44歳にもなると特に怪我などしていなくても疲労が残っていたりするので、朝、普通にベッドから起き上がるだけでも大変だったりします(笑)。なのでマッサージなど身体のケアにかける時間は、20代の頃と比較すれば圧倒的に長くなりました。 


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懇意にしているパーソナルトレーナーとトレーニングをするため大阪まで足を運ぶ事も。オンオフに関係なく、チーム練習のない日でもトレーニングを欠かした事は一日もない。

 

Q 食事に関してはどんな事に気を配っていますか。

 

身体に良いものを取り入れようと言う思考は年々高まってきました。コンビニエンスストアで売っているお弁当を食べる事はないですし、お酒はもちろんお菓子もめったに食べません。

野菜は出来る限り有機無農薬で栽培された国産を選ぶようにしています。肉も脂身は落として赤身だけ食べるようにしています。サプリメントもいろいろと調べて活用していますし、試合前日はほぼ炭水化物しかとりません。

 

Q 睡眠に関してはいかがでしょうか。いまはお子さんもいらっしゃって、独身時代とは睡眠環境も変わってきました。

 

朝7時に起きて、夜は午前零時には寝るようにしています。12時に寝て7時に起きる睡眠リズムは崩さないようにしています。本当は8時間睡眠を維持したいと思うのですが、なんやかんやで午前零時をまわってしまいます。
独身時代とは違い、いまは家族も出来て子供もいるので、なかなか常に1人の時間を作る事は難しいといえば難しいですが、毎日1時間、30分でも良いので、1人になってサッカーについて集中して考える時間は作るようにしています。

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Q 日によって眠れない、というような事はありますか?

 

1-IMG_1989ベッドに入ってからサッカーの事を考え出して、そこからいろいろな話題に派生していく事はあります。でもだからと言って「ねむれないまま気が付いたら朝になっていた」という事はないです。昼間に練習で体力を消耗しているので、肉体的な疲れが考え事だったりストレスを上回っていて眠れるのかもしれないですね。
ただ試合のあった日の夜は興奮したままなので寝付きが悪い事はあります。
引退をして生活サイクルがいまのようにトレーニングをする時間がなくなったら、逆にストレスや心配事が頭の中をめぐって眠れないことになるかもしれないですね(笑)。

永井選手のサッカー人生が集約された本『不器用なドリブラー』(集英社)

 

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*後編は6月29日(月)更新予定