挫折を乗り越えて新天地で開花した才能

中村友亮(フットサル日本代表)


 コンディション作りの基本は規則正しい睡眠リズム

 

Q中村友亮選手は、サッカー、フットサルと通算してプロになられて10年目ですが、昔と比べて体調管理で変化してきた事はありますか?

 

僕は高校を卒業して18歳でプロ選手になりましたが、22歳で結婚してからですね。
食事面でサポートしてもらえるようになり、栄養面でバランスの取れた食事を毎日食べられるようになった。
それまでは栄養のバランスも食事の時間も何も気にせず、好きな時に好きな分だけ食べていて、とてもプロ選手とは呼べないような食生活をしていました(笑)

 

Q睡眠に関してはいかがでしょう。

4_nakamura

冗談でも何でもなくて「趣味は睡眠」と言っても大げさでないほど寝る事は大好きです。
昔は「昼寝を2時間しても夜も8時間寝る」みたいな生活でした。 でも最近は、昼寝をすると夜は眠れなくなる事も多くなりました。
今年29歳になるのですが、やはり年齢のせいですかね。
夜中に目が覚めてしまう回数は確実に増えました。
寝返りを打って目が覚めてしまったり。
昔は寝ている時に大きな物音がしても、睡眠中はまったく気付かないタイプだったんですけど……。

 

Q年齢を重ねて行くと中途覚醒と言って目が覚めてしまったりだとか、睡眠の深さが少しずつ減ってきてしまうものです。なのでより自分に合った寝具や生活習慣というのは大切になってきます。
お昼寝に関しては、午後に30分程度とるのが理想です。

昼間に深い眠りをとってしまうと夜になってから眠れなくなってしまうので、例えばコーヒー、お茶などカフェイン成分の含まれた飲み物をとってから昼寝をするなどの工夫をする。
そうすると30分経つとカフェイン成分が効いて来ますので、必然とお昼寝をしていてもぱっと目覚めて夜もしっかり眠る事が出来ます。

3_nakamura

お昼寝が長すぎるのは良くないのですね。
30分間のお昼寝、早速、試してみます(笑)

 

人一倍強いまくらのこだわり

 

Q遠征などで気を遣っていることはありますか。

 

結構、枕が気になるというか。ホテルに泊まると、硬い枕もあれば柔らかい枕もありますし高さもいろいろありますよね。自分の一番眠りやすい、枕の高さの位置を探したりしています。

 

Q自宅での睡眠環境はいかがでしょうか。

1-中村友亮 (5)

昔はベッド派でしたが、子供が生まれてからは床に布団を敷いて寝るようになりました。
布団のほうが安心して眠る事が出来ますよね。

 

Q普段はどういったリズムで睡眠をとられていますか。

5_nakamura

夜12時くらいに寝て朝7時位に起きるサイクルは一応出来ています。
フットサル選手の場合、たとえプロでも給料だけで生活するのは厳しい。
たいていの選手は副業としてフットサルスクールのコーチなどを兼任しています。
チームもそのあたりは理解して下さっているので、練習は午前中と決まっています。
僕の場合も、午前中にチーム練習をして、昼間は身体を休める。
夕方からは子供たちにフットサルを教えています。

帰宅はだいたい夜10時前後になるので、就寝時間は夜12時くらいです。
でも逆に、規則正しい生活のサイクルが出来上がっているので、むしろ体調管理は、サッカーをしていた頃よりしっかり出来ているように思います。

 

Qそれは素晴らしいですね。
結構、Jリーグの選手にお話を伺うと、合同練習は2時間程度ですが、午前だったり午後だったりするので睡眠のリズムがバラバラだったりする、と伺いました。

 

僕もサッカー時代は、午後練習の日は、しょっちゅう昼まで寝ていました。 そう考えると、たとえ忙しくても一定の睡眠リズムを守る事を心がければ体調管理もしっかりできる。 あらためて自信になりました。

 

強豪チームに入るもCチームでスタートした高校時代

 

サッカーからフットサルに転向し現在は日本代表としても活躍する中村選手。出身はサッカー王国として知られる静岡県で、「遊び」と言えば「サッカー」という環境の中、ほぼすべての時間をサッカーに費やすような少年時代を過ごしたという。

 

まわりの友達もみなサッカーをしていたので、自然と好きになっていった感じですね。
ただ僕の場合、小中時代はごく普通のチームに所属していて「名門」と呼ばれるようなチームでプレーしていたわけではありません。
転機は高校に進学する時です。

2_nakamura

中学生になったくらいから高校サッカーをテレビで観るようになって「自分も全国大会の舞台でプレーしたい」と思うようになりました。 それで静岡には「静岡学園」という、カズさん(三浦知良選手/横浜FC)始め数多くのプロ選手を輩出している名門の高校サッカー部があるのですが、すごく憧れていました。 個人技を重視したドリブル主体のチームで、小柄な自分にも合っているかなと。
友達から「選考会があるから受けてみよう」と誘われて「とりあえず受けるだけ受けてみよう」と思い受けたら合格しました。 それからは親元を離れて、3年間、寮生活をしながらサッカーを続けました。

 

高校は全国屈指のサッカー強豪校、静岡学園に一般入学した。同学年の部員は35人前後。サッカー推薦などで入部した一部の同級生とは違い、中村選手は当初、A、B、Cある3チームのうち一番下のCチームに振り分けられた。

 

高校3年間で、それまでの小中の9年間分以上の時間をサッカーに費やしました。
単に「サッカーが好き」という気持ちだけから「もっと上手くなりたい」という気持ちが、より大きくなりました。
上手くなければ試合には出られない。
試合に出られなければ面白くないですから。 一方で楽しい事ばかりではなく「きつい」、「大変」という事も増えました。 それでも辞めずに続ける事が出来たのは子供の頃から変わらない、「何よりもサッカーが好き」という気持ちがあったからです。

誰よりも練習しましたし「絶対に負けない」という気持ちはずっと持ち続けました。1年生の夏過ぎには3年生のチームに参加する事が許されて、その年の冬にはトップチームに昇格しました。2年生で出場した全日本ユースでも準優勝して、静岡選抜にも選んでいただきました。

1-中村友亮 (8) 1-中村友亮 (7)

Qその頃になると「プロ」という事も少し意識するようになりましたか。

 

プロというよりは日本代表に対する憧れのほうが強かったように思います。
チームメートでも年代別の日本代表に入って活躍していたので、自分も上手くなって日本代表のユニフォームが着たいと徐々に考えるようになりました。

 

高校卒業後は、大学進学の内定を蹴ってプロ(ヴィッセル神戸)の道へと進んだ。声をかけてくれたのは母校、静岡学園の大先輩でもある三浦泰年氏(元日本代表でカズのお兄さん)だった。

 

 一度は諦めたプロサッカー選手になる夢

 

夏に一度、ヴィッセル神戸の練習に参加したのですが、その後は何も連絡がなかったので、自分の中では「駄目だったのか」と思い諦めていました。
「大学に通っている間に自分のやりたい仕事を見つけよう」と考えて、大学卒業後はプロとしてサッカーを続けるのはもう無理だなと思っていました。 それが大学に入学書類を提出する直前に神戸から連絡があり、入団が決まりました。
親は反対しましたが、ずっとサッカーが好きで続けてきてもっと上手くなりたいという気持ちも強かったので僕自身は、迷いはなかったです。

 

1-IMG_3567ヴィッセル神戸では3年間プレー。その後、当時JFL(Jリーグのひとつ下のカテゴリー)に所属していたFC琉球(現J3)に移籍し、中心選手の証といわれる「背番号10」を付けて活躍した。しかし2010年、中村選手は3年間所属したFC琉球を自ら退団。高校時代からの夢、「日本代表のユニフォームを着てプレーする」という夢が現実的でなくなってしまった瞬間、中村選手は、もう子供の頃のようにサッカーで夢をみる事は出来なくなってしまったのかもしれない。
知人からは強靭な足腰と小柄な体格を活かせる競艇選手にならないかと誘いも受けたもののいまひとつ本気にはなれなかった。静岡の実家に戻ってからはアルバイト生活。しかし2ヵ月後、FC琉球時代の大先輩、永井秀樹選手(現東京ヴェルディ/現役Jリーガーでは三浦知良選手に次ぐ最年長)を通じて紹介してもらったフットサルのバサジィ大分に入団が決まった。
(写真はFC琉球時代)

 

1-DSC_5282

サッカーはピッチがひろくて人数も11人いるので、ひとつのボールをゴールに入れるために全員が団結して同じ絵を描いていかないといけない。 話さなくても通じるくらいの意思疎通が必要です。
フットサルは5人でコートも狭いので、常にゴール前の攻防になります。 1秒、2秒ですぐに逆サイドにボールが移って点が入る。 サッカーの場合は「守る人は守って、攻める人は攻める」という要素が強いですが、フットサルは人数が少ない分、攻撃も守備もどちらもやらなければいけない。 攻める時は攻めて守る時は守る。
得点もサッカーよりたくさん入るので、よりアグレッシブなプレーが求められるように思います。

1-中村友亮 (2)

Q背が低い事がプラスになった事はありますか。

 

プラスというか、サッカーでは活かす事が出来なかった瞬発力を、フットサルではより活かす事は出来ていると思います。 サッカーは長い距離を走れる事が大きな武器になりますが、フットサルの場合は、どちらかと言えば瞬発力が求められます。
僕は長い距離を走ると全然速くないですけど短距離は自信があります。
サッカーをしていた頃は、最初は振りきる事が出来ても、長い距離を走っている内に追いつかれて身体を当てられてチャンスの芽を摘まれる事もありました。 フットサルは一瞬で振り切ってしまえば良い。
小柄な体格で細かなステップや切り返しで振り切る技術は、サッカーよりフットサルのほうが活かせると思います。  

1-中村友亮 (3)

2016年FIFAフットサルワールドカップ出場

 

2014年、中村選手は子供の頃からの夢だった日本代表に選出された。デビュー戦となった韓国戦(AFCフットサル選手権2014)ではいきなりハットトリックを決めて強烈アピール。来年、2016年にコロンビアで開催されるFIFAフットサルワールドカップでも活躍が期待される選手の1人として名前を挙げられている。

 

日本代表に選ばれた時は、正直、めちゃめちゃ嬉しかったですね。
高校時代からカテゴリー関係なくいつかは日本代表のユニフォームを着たいと願い続けてきたので。 ヴィッセル神戸から戦力外通告されて、JFLというひとつ下のカテゴリーでサッカーをする事になった時点で、半分は諦めていました。
でもフットサルという、体格に頼らなくても技術力で勝負出来る競技に転向した事で夢をかなえる事ができました。
今シーズンは日本代表に定着できる事を目指します。 まずはワールドカップ予選があるので、そこに出場して、サッカーとは違いますがワールドカップ出場という夢を叶えたいと思います。

 

1-DSC_5152

 

取材後期

 数々の修羅場を潜り抜けてきた中村選手。自分の長所を活かすためにありとあらゆる努力を積み重ねてきた。そして、また今シーズンも新たな挑戦をする。とても謙虚で紳士的な人間的にも素晴らしい方でした。これからも日本を代表するフットサル選手としての活躍を期待しますし、応援しています。

ねむりくらし研究所/高橋幸司